50代の社員が「働かないおじさん」としてメディアで話題になることが多くなりました。70歳までの就業機会の確保が企業に求められる中、昇給・昇進ができない若手のフラストレーションや、企業の人件費高騰問題から50代が槍玉にあげられることが多く、能力の高い50代の方でもなんとなく肩身の狭い思いをされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一方で、人材確保に苦慮している小企業やベンチャー企業が日本には数多く存在しています。世の中を広く見れば、中高年であっても自分の経験やノウハウを活かすことができる働きがいのある職場はたくさんあるでしょう。例えば、英語力や問題解決能力を活かした外資系企業への転職です。
しかし、50代が「いざ転職!」となると、一番問題となるのが年収のダウンです。
逆に言えば、年収ダウンが許容できれば働きがいのある職場への転職は可能なのです。
重要なのは「自分(家族)にとってはこれからどのくらいの収入が必要なのか」という、生涯年収という概念です。子育てや住宅ローンなど、自分の置かれている状況の棚卸から、年金の支給額などお金の問題が明らかになれば、実は自分には多くの選択肢があるのだということもわかってきます。
ここでは、具体的な棚卸の方法についてご説明いたします。
なぜ50代が人員削減の対象になりやすいのか?
そもそも企業が50代を重荷だと考え始めたきっかけは、改正高年齢者雇用安定法と同一労働同一賃金の導入です。2025年4月から65歳までの雇用確保が義務となり、政府の考えとしてゆくゆくは、70歳までの雇用延長を視野に入れています。また、60歳を越えて再雇用になった際、年齢を理由に同じ仕事内容で年収を大幅に下げようとしても、同一労働同一賃金によってそれを実行することはできません。
結果として、再雇用の際に給料を下げようとすれば、給料額に見合った仕事を用意する必要があるわけですが、現状多くの企業でそれに該当する仕事が存在しません。実は大手企業であればあるほど、定年後の再雇用は実現していないというのが現在の日本の実情なのです。
法律上、従業員が60歳になった時点で退職させることができないわけですから、大企業は50歳代になった段階で従業員を早めに退職させなければならなくなり、それが人事制度改正へとつながっているのです。
変わりつつある日本企業の早期退職制度
年齢の高い社員を対象とした人員削減といえば、特定の対象者に対して早期退職を促したり、期間限定で早期退職希望者を募るというパターンでした。
しかし令和になってから、経営上の特別な理由がなくても通期の人事制度として早期退職制度を導入する企業が増えています。
例えばある企業では、年一回早期退職希望者を募り、53歳を越えたら誰でも応募する権利を有するといった内容で実施しています。原則として、それまでの人事評価は早期退職の対象であるかどうかには関係しませんので、評価の低い社員に対する肩たたきではありません。
不意に募集される早期退職とは違いますので、対象年齢になる前から今後のキャリアプランを考え、転職先を見つけてから早期退職制度に応募することが可能となります。自分が在籍している会社の制度をしっかりと理解し、なるべくリスクを伴わないよう人事制度を計画的に、上手に活用することも一つの手段となります。
自分の市場価値を正しく理解する
現在の年収は、あくまでも在籍企業での経験・実績が評価されたものです。他社に転職した場合に、同じような評価を受けられる保証はありません。
また、現職よりも自身の能力が高く評価されたとしても、転職先企業の給与水準などの影響で現在の年収よりも低い金額でオファーされることもあります。もちろんその逆もあり、自分が思っている以上に高い給与パッケージを提示されることも十分考えられます。
そこで、自分自身の汎用的な経験・スキルを正確に理解し、自身の市場価値とともに一般的な給料水準を理解することが重要となります。そのためには客観的な視点が必要となり、エイペックスのような転職エージェントのコンサルタントに相談してみることが、最も信頼でき効率的な道となります。
仮に採用時に一時的に年収が下がったとしても、65歳まで変わらない年収で勤務することができると考えれば、引退までに稼ぐことができる年収としては現職に留まるよりも高くなるということも考慮しましょう。50代の転職は、30代や40代のように現在の年収維持が転職の前提には必ずしもならないことを理解しておきましょう。
お金やライフプランについて家族で協議する
子育てや住宅ローンだけでなく、親の介護や相続など、お金にまつわる様々な問題を解決しなければならないのが50代です。
30代や40代のように、なんとなくこれくらい稼ぎたいとか、年収をUPしたいといった漠然とした希望ではなく、これから実際にどのくらいのお金が家族にとって必要なのか、具体的な数字が見えてくる年代と言えます。パートナーとだけでなく、それぞれの両親や兄弟、親族とも、時には話し合いの場を持ちましょう。
もちろん、独身の方の場合も例外ではありません。ご自身の老後にかかる費用についても試算しておくべきなのですが、ここに親の介護や遺産などが絡んでくる場合には、兄弟姉妹や親族と相談をしておく必要があります。
実際に自分は年金をいくらもらえるのか、パートナーに万が一のことがあった際に年金の支給額はいくらになるのかなど、自分で調べるのにはなかなか難しい内容も含まれます。ファイナンシャルプランナーや信託銀行など、プロのアドバイスを受けながら相談することも選択肢として考えておきましょう。
自分にとって豊かな人生とは何か
アメリカの心理学者であるアブラハム・ハロルド・マズローは、自己実現を果たすことこそが仕事をする意義であり、仕事を通して自己実現することが本当の心理的健康と有意義な人生をもたらすと唱えました。
もし、現職では自己実現が不可能なのだと結論づけるのであれば、残りの人生を充実したものにするためには転職を考えなければなりません。
また、プロフェッショナルであるならば、今までの経験・スキルを最大限に活用し、企業や産業、コミュニティや社会に貢献し続けたいと考えるのは当然です。
エイペックスでもたくさんの50代の方のキャリア相談をお受けしていますが、反対に企業からも優秀な50代の方を求める案件も多くお預かりしています。専門性のある方、マネジメント経験の豊富な方、英語力のある方、様々な年齢・バックグラウンドを持つ同僚ともうまくやっていける謙虚で柔軟性のある方、リーダーシップ力のある方、業界内でネットワークをお持ちの方などポイントは様々ですが、年齢よりも資質・経験重視で採用する企業もたくさんあります。
たとえ現職で評価されていると感じても、早期退職を募集せざるを得ない企業の実情もあります。決して悲観せず、転職エージェントと相談しながら自己実現をあきらめず長く実りのあるキャリアを見つけていきましょう。