司法試験合格後法律事務所へ就職するのは、一般企業への就職と似ている部分もありますが明確に異なる点もあります。そこで今回は、法律事務所に新人アソシエイトとして入所を希望している方を対象に、大手事務所と中小事務所のメリットとデメリットを仕事内容や待遇の違いから解説します!
大手法律事務所 〜年収の高さと大型案件の経験が積めるのが魅力~
大手事務所とは、5大事務所(西村あさひ法律事務所、アンダーソン・毛利・友常法律事務所、森・濱田松本法律事務所、長島・大野・常松法律事務所、TMI総合法律事務所)に代表される渉外法律事務所です。基本的に個人ではなく企業を顧客に持ち、国内外を問わず主に大型商業案件を受注します。
メリット① 年収の高さ
まず、これら大手渉外事務所に共通するのは年収の高さです。1年目の新人弁護士でも1,000万円を超えることは普通です。シニアアソシエイトになれば2,000万円~3,000万円台、パートナー(経営者)に至っては数千万円以上が一般的です。クライアントも一流企業が多く大型の渉外案件を取り扱うことが多いため、平均年収の高さは中小規模の事務所に負けることはありません。
メリット② 充実した研修制度
大手事務所では新人教育の機会も豊富で、入所後数年で欧米圏の弁護士資格取得を目指した留学プログラムが準備されています。英語教育についても力を入れており、英会話の先生が事務所まで来てレッスンしてくれるなど、多忙な新人に配慮したプログラムが組まれています。
メリット③ 大型案件に携われる
新人の内から大型取引案件に関与できることも魅力です。しかも、案件業務に集中できるようバックオフィスサービスも充実しています。自分の秘書だけでなく、夜間勤務のパラリーガルやITサポートなど業務時間外でも困らない体制が組まれ、専門誌の購読や蔵書なども充実しています。また、所内には様々な分野を担当する弁護士が数多く在籍していますので(在籍弁護士は数百名)、質問や疑問を所内で解決することもでき効率的に業務を遂行することができます。
メリット④ 所内イベントが多い
所内のイベントも様々に開催されるのが一般的で、「リトリート」(平日に避暑地などに集まり弁護士を缶詰にしてセミナーやイベントを行うこと。翌日の自由行動ではゴルフなどのアクティビティを楽しむことが多い)が実施されたり、折々のパーティーも数多く開催されます。福利厚生という点では一般企業と大きく異なるのが事務所勤務の弁護士ですので、こういった社内外の人と交流の持てるイベントが好きな方には良いかもしれません。
デメリット① 拘束時間の長さ
ここまでご紹介し、メリットも多く非常に魅力的な大手事務所での勤務ですが、やはりプライベートがある程度犠牲になってしまうのは大きなデメリットでしょう。これは待遇の良さと引き換えと考えるしかありません。大型案件には絶対に逃せないマイルストーンがあり、深夜や休日を問わず対応することが求められますので、ワークライフバランスについて考えるのは先の話ということになります。
大手事務所に向く人、向かない人
大手事務所への勤務をお勧めしたい人は、第一に激務を厭わない人です。また、大型案件では大量の書類を扱うので几帳面さも非常に重要です。加えて在籍する弁護士も多く、事務所内外を問わず様々な関係者とコミュニケーションを取ることが求められますので、社交的でエキサイティングな職場環境に魅力を感じる人に向いています。
逆に、人付き合いが苦手な人には大手は向いていないということになります。また、国際的な取引に関わる渉外案件を担うことから、英語を使うことが苦手なレベルの人にも向いていません。大手事務所では国内案件だけを扱うことはほぼありませんし、英語圏への留学をしないという選択をすると、事務所でのその後のキャリアにも響いてきます。
中小法律事務所〜専門性の高い案件に関与でき、個人の弁護でやりがいを感じることも~
では、中小規模の法律事務所の実際はどのようなものなのでしょうか?受注する案件が小規模かつ専門化する傾向があるのが中小事務所の特徴です。商事を扱っていても、労働問題、事業再生、債務整理など、トランズアクションよりも調査や問題解決が多い傾向にあります。個人案件を受注することも多く、家族問題、相続、刑事事件の弁護などを扱います。
メリット① 専門性が身につく
中小事務所では、新人弁護士の内からより専門化した分野を担当することも多いため、自身の専門性を深められることがメリットと言えます。また、個人向けの法律業務の経験も多く積むことが可能です。このため、将来独立しやすいのも中小事務所勤務の弁護士と言って良いでしょう。
メリット② 弁護士としてのやりがいを感じやすい
企業法務ではトランズアクションをまとめることが仕事であり、契約書のドラフティングやレビューに多くの時間を費やします。それに対し、個人案件ではクライアントの代理人として相手方と交渉したり、裁判にからんだりとまさに弁護士という役割が果たせます。弁護士としての能力がダイレクトに結果となって現れ、クライアントからも直に評価を得られるため、弁護士としてのやりがいを感じやすいでしょう。これは、大規模案件ではあまり得られない感覚と言って良いかもしれません。
デメリット① 大手と比べて低い年収
年収は大手渉外事務所と比較するとやはり低くなるのがデメリットです。新人弁護士では1,000万円未満が年収レンジとなり、もちろん個人差はありますが、パートナーに昇格したとしても相対的に低い年収に留まる傾向にあります。
中小事務所に向く人、向かない人
中小事務所の勤務に向くのは、興味のある分野がはっきりしていて他分野にあまり関心のない場合です。例えば、労働問題に強く興味があって将来の専門としたい人は、大手渉外事務所に就職するメリットはあまりないかもしれません。一般的に言って、労働問題は他分野の知見がそれほど必要ではないからです。
逆に向かない人というのは、将来大手企業のインハウス弁護士への転職を考えている場合です。企業は渉外案件を取り扱う経験豊富なリーガル人材を求めており、その点を考慮すると大手渉外事務所のほうが企業内弁護士として転職しやすいのが現状です。大型案件には様々な分野の法律が関係するため、一般企業に必要な法務経験を一通り得やすいからです。
大手、中小とも就業するメリットとデメリットはもちろんありますが、弁護士として充実した生活が送れることは共通しています。大切なことは、忙しい毎日の中でも5年後、10年後のキャリアパスについて早い段階から計画を立てておくことです。ご自分が弁護士として何を目指しているのかを明確にしているほど、より有意義なアソシエイト時代を送れるのです。
今すぐ転職するしないに関わらず、多くの方が20代、30代の早い時期から将来を見据えて、エイペックスのリーガル専門コンサルタントとのキャリア相談会にいらっしゃっています。どちらがベターなのか、またご自身の志向や目標により早く到達するのはどんなキャリアパスなのか、記事と合わせて検討する材料にして頂ければと思います。