製造業に設けられている「品質保証(QA)」は、自社の製品のクオリティが業界規格や消費者の期待値を保っているかを保証する企業活動の根幹となる部門ですが、製薬企業の品質保証業務は他の業界とどう違うのでしょうか?
一見安定した仕事に見える品質保証業務ですが、製薬業界では近年バイオ医薬品の増加などにより製造ラインの増強や外部委託が拡大し、また医薬品のコンプライアンス遵守の重大性から品質保証業務の重要性と職責が増大しています。
そこで本記事では、よく耳にする「品質管理(QC)」との違いから品質保証の具体的な職責・仕事内容、求められるスキル、平均年収、働き方、未経験者でも挑戦が可能なのかなどとともに、最近の求人動向や転職成功のコツについてもお伝えします。
目次
そもそも品質保証(QA)とは何か?
品質保証(QA)と品質管理(QC)の違い
品質保証(QA)の4つの職責
品質保証(QA)の仕事内容
品質保証(QA)に求められるスキル・知識
品質保証(QA)の平均年収
品質保証(QA)の働き方
品質保証(QA)は未経験でも転職可能か?
品質保証(QA)の転職市場動向
品質保証(QA)に関するよくある質問(Q&A)
品質保証(QA)への転職を成功させるためには
そもそも品質保証(QA)とは何か?
「品質保証(QA:Quality Assurance)」とは、自社製品が既定の品質を常に保っているかを確認する業務ですが、製造する製品だけでなく出荷後についても継続して品質を監視していくことで、その安全性と有効性を保証する体系的な活動を指します。
製薬企業の場合、QAの仕事は製造工程での品質管理だけでなく、組織全体の品質保証体制づくりや品質基準の策定、製造委託先の選定や監督、社員の教育、出荷後のトラブル対応など、常に医薬品の品質を担保し向上を目指す活動を続けることで患者さんが自社製品に満足し、安心して服用できるよう努めることにあります。
そのため業務範囲は非常に広く、医薬品のライフサイクルでいうと治験と呼ばれる医薬品の開発段階、製造所などの生産現場、発売後のアフターフォローや変更管理まで、開発から予防、是正措置までを一気通貫でカバーし、なおかつ国内外の関連業者、また多くの関連部署とも協働する部署になります。
品質保証(QA)と品質管理(QC)の違い
製薬企業にはQAのほかに、「品質管理(QC:Quality Control)」という部門がありますが、QAと何が違うのでしょうか?
QAが「出荷前~出荷後まで医薬品の品質を恒常的に担保する」のに対し、QCは生産現場に携わる仕事で、製造生産部門とは別に「原料の入庫~製造~出荷までの工程において、薬剤が既定の品質基準を満たしているか品質検査を行う」のが主な仕事です。
そのためQCは、製造所でのサンプリングや分析などの試験業務、分析法の適合性確認、試験機器の適格性評価、モニタリングによる安定性試験の実施など、具体的な試験や分析を通して薬剤の品質を確認します。
一方QAは、薬剤が一貫して品質基準を満たすようにするためのシステムやプロセスを構築・管理するのが務めです。つまり、QAはQCの仕事を支援・監督する立場にあるといえます。
| 品質保証(QA) | 品質管理(QC) |
役割 | 製品の品質に関するすべてに責任を持つ | 製品の生産現場における品質に責任を持つ |
責任の対象 | 顧客(医療従事者や患者) | 製品 |
業務範囲 | 製品の開発~生産~市販後まですべて | 製品を市場に出すまでの検査・分析・管理(出荷後も定期的にサンプル検査あり) |
部門 | 品質保証部門 / 信頼性保証部門など | 品質管理部門もしくは品質保証部門のなかに品質管理部門があることがある |
ただ、企業によりQAとQCの役割は異なることが多く、小規模の企業の場合には担当者が同じになることもあるなど、ここでご紹介するQA・QCの役割はあくまで一般的な製薬企業の場合ととらえてください。
品質保証(QA)の4つの職責
QAは薬剤の品質に関するすべてに責任を持つとお伝えしましたが、具体的には主に下記の4つに関しての職責を担っているといえます。
1. 体系的な品質保証活動の確立
品質保証とは、ある特定の部門や製造プロセスで行うことではなく、開発・製造・販売など医薬品の全プロセスで企業が実施しなければならない体系的な活動です。 そのため、QAの目的や意義、規制遵守に対する施策等を社員や外部委託業者などに幅広く理解してもらい、品質を最重要視する企業文化が醸成されるよう啓蒙活動を継続していくこともQAの重要な任務の一つです。
2. 品質問題の予防と安定供給の実現
QAは、薬機法やGMP省令・GQP省令などの関連法規に準拠して開発・生産・販売活動が行われているかを常に確認し、品質問題を未然に防ぐことが責務です。品質問題を予防することで製品の信頼性を高め、安定した供給を確保することが重要です。これにより、顧客に対して一貫した品質の製品を提供し続けることができます。
3. 品質に対する顧客満足と企業価値の向上
QAの責任対象は医療従事者や患者といった顧客であり、最終的な目的は開発された薬剤の品質が顧客が満足するレベルを常に満たしていることを確認することです。 そのため、製品納品後も医療従事者や患者さんからのフィードバック収集・分析、苦情対応、それに伴う改善検討を行い、さらなる顧客満足と品質向上につなげていきます。こうしたアフターフォローと成果により企業の信頼性と評価を向上させ、企業価値の向上につなげていくことが目的です。
4. 生産性の向上とコスト削減
QAとして効率的な製造プロセスを確立し継続的に見直しを行うことで、生産性を向上させ、コスト削減にもつなげていくことも任務の一つです。これにより、製品の品質を維持しつつ経営コストを抑えることができれば、最終的に顧客への還元が実現され顧客満足度のアップにもつながります。
※薬機法:医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
※GMP省令(Good Manufacturing Practice):薬機法に基づいた医薬品の製造管理及び品質管理の基準
※GQP省令(Good Quality Practice):薬機法に基づいた医薬品等の品質管理基準
品質保証(QA)の仕事内容
では上記の4つの職責をふまえ、QAは実際にどんな仕事を行うのでしょうか?
1. 体系的な品質保証活動の確立
品質基準の策定や文章化:GMP省令など国内外の規格に適応した社内基準(SOP)を議論し策定する。運用後、問題が発生するようであればその都度改訂していくことも大切な仕事の一つ。
品質ガバナンス体制の構築・運用:SOPを確実に遵守できるような運用方法の構築・システム作りなどを行う。文章で書かれているルールを実務にどう落とし込んでいくのかを考えるため、SOPと現場の声とをすり合わせて現実的に運用可能なルールを作成する必要がある。
品質関連情報の社内共有や社内教育:品質保証はすべての部門で統一された認識である必要があるため、品質関連情報のアップデートや、関連法規変更時を含めた情報の社内共有・社内教育も行う。分かりやすい情報共有のため、スローガンを制作するなどの啓蒙活動も含まれる。
2. 品質問題の予防と安定供給の実現
GMP適合性調査や監査対応:社内監査や規制当局の監査などに対する指摘事項の対応、回答書の作成などを行う。
ベンダー管理:医薬品製造には複数のベンダーが関わるため、それぞれの選定や手配、製造工程の管理、GMP監査の実施や向上支援なども行う。製造工程において発生するプロセス変更やパッケージの改良など、変更対応やそのための管理対応も都度行う。
変更管理:パッケージの改良など製品変更時の品質への影響調査、当局への報告の妥当性判定などを行う。
医薬品・治験薬の出荷判定:出荷予定の医薬品が品質基準をクリアしているかどうかのチェック。品質そのものはもちろん、製造工程の管理記録表などにも問題がなかったかどうか確認して出荷する。
逸脱管理:SOPやGMPなど決められた規定から外れることを逸脱という。逸脱は品質問題を起こす可能性があるため、原因調査や是正措置、予防措置まで細かい報告が必要。
3. 品質に対する顧客満足と企業価値の向上
製品のクレーム対応や回収:医療従事者や患者さんからの苦情収集・分析、場合によっては製品回収(リコール)を行う。クレームは製品改善等今後の品質向上に大きく役立つため、一定期間保存し整理してまとめておく。スムーズに対応できるよう、あらかじめクレーム対応のシステムを構築しておくことも求められる。
4. 生産性の向上とコスト削減
継続的な品質改善の推進:医薬品が広く使われるようになった後も、継続して商用製品の安定供給や業務プロセスの改善を行う。常にトライ&エラーを繰り返してより良い方法を見つけていく。
品質保証(QA)に求められるスキル・知識
製薬企業のQA職に就くために特別な資格は必要ありません。ただ、QCよりも幅広い業務をこなすQAは、QCよりも高いレベルでの品質や法令に関する知識・経験が要求されます。下記は代表的なQA求人の募集要件ですので、確認してみましょう。
学歴:理系学位が必須のことが多く、理系修士以上や薬剤師資格取得者は特に歓迎される。医学や薬学専攻者に限らず、理工学系や化学、農学系出身者でも応募が可能なことが多い。 (以下の表は、エイペックス調べによる製薬業界のQA転職者の最終学歴の分布図)
英語力:海外の製造拠点や海外チームとの協働が頻繁にあるため、日常会話~ビジネスレベルの英語レベル(目安TOEIC650点以上)が必須。メールでのコミュニケーションをはじめ、英語での文書やレポートの読解、各国の関連法規の理解などが求められる。 (以下の表は、エイペックス調べによる製薬業界のQA転職者の英語力レベルの分布図)
経験:製薬業界(CRO勤務者含む)でのQAの経験が望まれるが、QC、製造・生産管理や生産技術、臨床関連のみの経験でも十分採用のチャンスあり。もしくは関連業界(医療機器やライフサイエンス、健康食品など)でのGxP関連経験者でも応募可能なことがある。
知識:関連法規に準拠した製造・生産・出荷がなされているかを確認するため、GMPやGCP等のGxP、ICHガイドライン、品質マネジメントシステム(ISO9000/9001など)、薬事関連の基礎知識が求められることが多い。
データ分析力・論理的思考力:日常的にデータやレポートを読み込み、リスク分析やトラブルの原因究明、報告の可否などを行うため、数字やデータに対する理解力やそこから全工程を俯瞰で見て問題の所在や結論を導き出せる論理的思考力が欠かせない。特にトラブル発生時には適切に対応するため、普段からコツコツとデータを積み上げ分析しておく、常に改善の余地がないかを探っておくなどのプロ意識の高さが求められる。
コミュニケーションスキル:QAは非常に多くの関連ステークホルダーと協業するポジションであるため、高いレベルの対人能力やコミュニケーションスキルが必要。特にトラブルの原因が判明した際には、関係各所への丁寧な説明や製造現場への妥協のない改善要求など難しい立ち位置となることが多いため、コミュニケーションスキルは転職時の面接でも必ずチェックされる大事なポイント。
品質保証(QA)の平均年収
製薬業界は他に比べて高年収が狙える業界です。企業規模や職位(ランク)によって年収にばらつきはありますが、QA職についてもその高度な知識やスキルの必要性、人材の希少性から求人募集は堅調に増加しており、基本的に1,000万円スタートからの高い年収が期待できるでしょう。 下記のグラフは、製薬業界のQA転職者の年収分布図になります。
また、50代になると一般的に転職が難しくなる傾向にありますが、その専門性の高さから50代の方でも年収アップ・キャリアアップとしての転職が実現できるのがQA職の特徴です。
エイペックスでも、多くの方が現状よりも高い年収やポジションでQAとしての転職を成功され、新天地で活躍されています。各企業の求人・採用動向やあなたの市場価値についてコンサルタントに詳しく聞くことができますので、ぜひ下記からキャリア面談にお申し込みください。
品質保証(QA)の働き方
では、製薬企業やCROのQAはどんな働き方が一般的なのでしょうか?下記に例を挙げてみましたので参考にしてみてください。
外勤が少ないためリモートワーク(オフィス勤務と在宅勤務のハイブリッド)を選べる企業が非常に多い。フルリモートワークをOKとしている企業も珍しくない。
東京本社勤務が最も多いが、関西やその他の地域(製造所)を選べることも多い。
始業は8:30~9:00が多いが、フレックスタイム制度を導入している企業も多い。
トラブルが発生しない限りはルーチンワークやオンラインでの打ち合わせが多く、ワークライフバランスが取りやすい。
製造所や委託先、海外工場やサプライヤーの視察・監査のため国内外への出張があることが多い。
グローバル本社や海外地域チームとの打合せのため英語を使用する機会が多い。
企業やポジションにより働き方は異なります。詳しくは製薬業界専門の人材コンサルタントまでご相談ください。
品質保証(QA)は未経験でも転職可能か?
製薬企業のQA業務は、資格や学歴よりも経験が重視される職種の一つではあるものの、一定の条件があれば稀ですがQA未経験者でも採用の可能性があります。
特に薬学の知識が非常に重要なため、薬剤師の資格があれば企業での就業は未経験者という方でも、求人募集がでてくることがあります。
製薬業界従事者であれば、先に述べたようにQC、製造・生産管理や生産技術、臨床関連の経験があればQA未経験でも応募が可能です。さらに、GMPの文書作成や査察・変更対応、CAPA(不良・不適合の是正措置・予防処置)の検討などQAとの協働経験があると採用の可能性が高まるでしょう。
製薬業界未経験者でも、稀ですがヘルスケアや食品関連などの業界でのGxP関連経験があれば応募可能なこともあります。
製薬メーカーが治験に特化したQA業務をCROに委託するケースもよくあるため、経験値に自信のない方はCROへの転職を検討しても良いでしょう。 CRO(医薬品開発業務受託機関)のほうが、未経験者の中途採用に積極的で求人募集も多く、研修制度も従事しています。CROでQA業務の経験を積んでから製薬会社に転職する方も多く、QA職のキャリアの入口として未経験者に適しています。
品質保証(QA)の転職市場動向
ここで、エイペックスの製薬チームに所属しプリンシパルコンサルタントとして活躍する栁澤 怜奈から、QA職の転職市場の実際について話を聞きました。
「QA職は、その広範的な職種の特徴からどの企業からも必要とされる人材で、求人数も堅調といえます。一方で、前述のように比較的ワークライフバランスが取りやすく、職場環境も安定していることが多いため退職者が少なく、営業職のように転職市場が活発でない時期も多くあります。転職を希望される場合には、普段から履歴書や職務経歴書を更新しておく、コンサルタントと密に連携を取り最新の市場情報を送ってもらうなどして、良い求人にはすぐに応募ができるよう準備しておくことが大切です。
また、これは製薬企業のQA職の特徴ですが、案件によっては担当する医薬品の剤型やモダリティーの違いで製造方法などが異なるため、特定のスキルを求められるケースがあります。その際に幅広い経験を積んでいる、もしくは応募先企業との経験の親和性が高ければ高いほどスムーズに内定につながることが多い印象です。転職活動には普通3ヵ月~6ヵ月を擁しますが、QA人材自体の希少性に加え特定のスキルを有しているとなると、短期間での内定獲得も可能です。つい最近もQAの方の転職をサポートさせていただきましたが、コミュニケーション力などのソフトスキルにあわせて、応募先企業とご経験の親和性の高さから非常に短期間での採用、しかも2社からの内定につながりました。 」
品質保証(QA)に関するよくある質問(Q&A)
Q. 品質保証の求人に応募する場合、どんな特徴やスキルがアピールにつながりますか?
A. QAの仕事は得られた結果をもとにデータを分析し、実務に反映させることが重要です。そのため、数字や統計に苦手意識を持っていないことは大きなアピールポイントになります。 他部署とのディスカッションや業務調整、交渉なども頻繫に行われるため、建設的な話し合いができるコミュニケーション力も大きなアピールにつながります。クレーム対応や逸脱対応なども仕事であるため、高度な対話力が求められるでしょう。
責任感が強い、仕事に対するコミット力が高いということもぜひ言及しましょう。品質を保証する企業の番人として、どんな小さなポイントも見逃さないという姿勢があることが求められます。
Q. 品質保証の仕事に向いている人はどんな人ですか?
A. QAの仕事に向いているのは、責任感があって仕事にまじめに取り組める人です。規制当局も含めて社内外のさまざまな立場の人と話すことが多いため、ひとりで仕事をするよりも皆で協働することが苦にならないチームワーク志向の人も向いているでしょう。感情的にならずに建設的に話せる、難しい要求も妥協せず交渉できるなどの特性があれば、さらに活躍の場が広がるでしょう。
Q. 品質保証職の採用面接では、どんな志望動機だと良い印象につながりますか?
A. 採用面接では、「なぜQAの仕事を希望するのか?」について必ず聞かれます。ここで品質の仕事への情熱を自分の今までの経験やキャリアとからめて話せるかがポイントです。うわべだけでない、あなただけのストーリーは何かを考えましょう。
また、「なぜその企業なのか?」ということも合わせて問われますので、製品の魅力や企業の価値観への共感などを話せるようにしておきましょう。最終的に、QAの仕事を任せるならば自分しかいないという説得力のある志望動機につなげられれば理想的です。
Q. 品質マネジメントシステム(ISO9000/ISO9001)とは何ですか?
A. ISO(国際標準化機構)が定める「品質マネジメントシステム(QMS:Quality Management System)」に関する国際規格群をISO9000シリーズと呼んでいます。企業は高品質な製品を製造さえすれば良いということではなく、品質向上のための継続的な取り組みが大切であり、その仕組み・ルールづくりの要求事項を規定しているのがISO9001になります。企業がQMSを導入することで不良品の発生防止やコストの削減、それによる高品質な製品の提供が継続的に可能になり、最終的に顧客満足度の向上につながると考えられています。
Q. 日本品質保証機構(JQA)とは何ですか?
A. 一般財団法人として上記のISO9001が規定するマネジメントシステムや試験、検査等を実施する機関が日本品質保証機構(JQA)です。国際規格に基づくシステムを事業部門ごとに確立し、顧客満足度・認証等の品質・信頼性の向上に努めています。
品質保証(QA)への転職を成功させるために
QAに限らず、製薬業界といった特定の領域での転職を成功させるためには、情報収集とそれに基づいた戦略的な転職活動が欠かせません。
まずは、製薬業界に精通したエイペックスの人材コンサルタントとのキャリア相談会にお越しください。製薬業界において豊富な実績を持つコンサルタントが、あなたの適性や希望条件をふまえ理想的なキャリアプランをご案内します。今すぐの転職ではなくても、自身の市場価値の把握や今後のための情報収集でも大歓迎です! ご興味のある方は、下記のボタンよりお申し込みください。