女性の活躍やワークライフバランスを論じようとするとき、そこにほぼ必ず登場するキーワードがあります。それが、「育児休業」です。
ここではこのキーワードをテーマに、「男性と女性の育児休業取得率について」「男性の育休取得が進まない理由」、そして「共働き世帯が子育てをするための現実的な対応方法」について解説していきます。
■男性の8人に1人、女性の5人に4人以上が育休を取得している
政府の統計によれば、女性の育児休業取得率が85.1%なのに対し、男性の取得率は13.97%だそうです。ちなみにこれは2021年度の調査結果※ですが、それまでの推移を見ると「女性の育休取得率は80%~90%でほぼ横ばいだが、男性の取得率はここ10年で6倍近くになっている」と言えます。
ただ、このような変化を見ても、やはり「男性の育休取得率は低い」と感じる人が大半なのではないでしょうか。
■男性の育休取得が進まない理由
男性の育休取得率は女性のそれよりも低い状態にありますが、しかしだからといって「男性は育児に興味・関心がないから育児休業を取らないのだ」と言い切るのは誤りです。
たとえ男性が育児休業を取得したいと考えても、そこには「収入面の問題」が立ちはだかっているからです。出産・子育て世代である20代後半~40代は、いずれの年齢層であっても男性の方が女性よりも給与が高いというデータを見てみましょう。
男性 | 女性 | |
20代前半 | 213万円 | 207万円 |
20代後半 | 248万円 | 230万円 |
30代前半 | 290万円 | 243万円 |
30代後半 | 326万円 | 254万円 |
40代前半 | 359万円 | 264万円 |
※千円単位以降は四捨五入
出典:厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査 結果の概況」内「性別」
これを理解したうえで、「育児休業中の父母に対して給与を払わなければならない義務は企業にはない」という事情も考慮しなければなりません。現在は福利厚生の一環として育児休業制度を利用している社員に対しても給与を出す企業もありますが、これはあくまでもその企業独自の就業規則によるものであり、法律によって定められているものではありません。
また、たとえ給与を出す企業であっても、「仕事をしていない=会社の利益に貢献していない」社員に対して「仕事をしている=会社の利益に貢献している」社員とまったく同じだけの給与を支払う企業は極めて少ないといえるでしょう。
つまり、育児休業を取得すればその分世帯年収は下がるのです。
そこで国では、一定の条件を満たせば雇用保険の被保険者に「育児休業給付金」を支給しています。
育児休業給付金支給額:休業開始時賃金日額×支給日数×67%(181日目以降は50%)
条件※はあるものの、非常にざっくり言うと「働いていたときの7割くらいの給与が育休開始6か月までは支払われ、それ以降は半額が支払われるよ」となります。
また、「育児休業でもリモートで働いていて、育休前の80%以上の給与が出る」という場合は給付金を受けることはできませんし、80%を超えない場合であっても給与があるのであればその分受け取れる育児休業給付金は減ります※。
これらを合わせて考えていくと、
一部の特例を除き、育児休業を取ることで給与は大幅に減る
男性の方が女性よりも給与が高い傾向にある
男性が育児休業を取った場合、女性が取る場合に比べて世帯年収の絶対額が減りやすい
その結果として、生活が苦しくなりやすい
となることがわかります。
子どもを育てるためにはお金が必要です。しかし育児休業を取れば、ほぼ必ずと言っていいほど世帯年収は下がります。男性の場合はその下がり幅が女性に比べて大きいので、「取りたくても取れない」という状況になりがちなのです。
■現実的な解決策とは
では「企業が給与を支払えば良い」と考える人もいますが、実際にそれを行えるのはある程度資本が大きい企業だけです。
そのため、「今ある手段や方法で、協力して子育てをしていくこと」を考える方が現実的です。
1.政府の育休制度を利用する
2022年の10月から「産後パパ休暇」が導入されており、これは「2週間前に申し出れば、(通常の育児休業とはまた別に)生まれてから2か月以内に28日間の休暇を取れる」としたものです。一定条件を満たせば育児休業給付金が受給でき、社会保険料も免除されます。
また、「パパ・ママ育休プラス」として、夫婦が共に育児休業を取得すると「子供が1歳までであった育児休業が1歳2か月までに延長できる」とした制度も施行されています。これらを2人で使っていくことで男女とも仕事と子育てを両立し、母親の職場復帰を支えることができます。
2. 病児保育や夜間保育を利用する
国は、多様な子育て支援サービスを提供しています。たとえば病児保育や夜間保育、休日保育や延長保育などです。
たとえば病児保育は、「子どもが病気で保育園に行かせることができず、親も仕事を休めない」という状況のときはもちろん、「親が病気で寝込んでいて、保育ができない」というときにも使えるものです。費用はかかるものの3,000円程度と安く、これを上手く利用して負担なく仕事と子育てを両立できるようにしましょう。
3. 家事代行サービスなどを使う
家事代行サービスやベビーシッターなどの外部のサポートを利用するのもひとつの手です。
公的なサービスとは異なり費用はかかりますが(安いところで8時間8,000円程度、高い業者で24,000円程度)、ピンチヒッター的に使うこともできますし、継続契約で単価が安くなることもあります。
また、中食などもうまく利用すると良いでしょう。
■まとめ
共働き世帯の子育ては、「どのように育児休業を取るか」「収入はどうするか」などの問題もありますが、それをフォローする方法はいくつもあります。実はユニセフの報告では、日本の育児休業制度は41か国中第1位の評価を得ている一方、保育への参加率では31位でした※。つまり、制度は整っているのにそれを利用する人が少ないということです。
無理だと思い込むのではなく、「解決手段はあるか?」という視点で調べてみて、みんなで問題を解決していくというマインドを持つようにすれば、共働き世帯でももっと安心して子どもを育てていけるのではないでしょうか。
女性の育児休業取得率は85.1%、男性は13.97%
男性が育休を取得すると、女性が取得する場合に比べて経済的な打撃が大きい
現在は法律も整備されつつあり、国の制度や外部の助けを利用しながら共働きがしやすくなっている
全員が「自分事」として育児をとらえ、「解決手段はあるか」に目を向け情報を収集していくことが大切