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臨床開発の今後:今知っておきたい「デジタル化」のトレンドを解説!

製薬業界では、現在人手不足やコスト削減を目的にあらゆる場面で「デジタル化」が進んでいます。特にその中でも、臨床開発分野では様々なフェーズでデジタル化が推進されており、今後さらにデジタルを活用した臨床モデルが増えていくことが予想されています

そこで、臨床開発職に携わる、もしくはこの分野でのキャリアを希望されている方向けに、デジタル化が進む製薬業界で今知っておきたい情報やデジタル化が急務である理由、具体的な取り組みなどを解説していきます。

目次

  • 製薬業界におけるデジタル化の目的

  • デジタル化は高齢化社会への対応

  • 臨床開発におけるデジタル化の具体的な取り組み例

  • デジタル化に適応するためのアップデートの必要性

デジタル化の目的はコスト削減と個別化医療

創薬は、研究開発から臨床試験まで多くのマンパワーとコストがかかる一大プロジェクトでありながら、必ず製造販売の承認がもらえるわけではないというリスクの高い事業と言えます。加えて、IoTやビッグデータの活用などデジタル技術の進歩により、治療のあり方も昔とは大幅に変わってきました。画一的な治療ではなく、患者さん一人ひとりの身体や価値観に合った薬剤や治療が求めらる時代になっており、製薬企業から見てもより効率的で生産性の高い治療法の開発が求められるようになっています。

そのため、新薬開発のコスト削減とパーソナライズされた治療の促進の両方を叶える「デジタル化」が、今臨床開発の現場でも大きなトレンドとなっています。

デジタル化により高齢化社会へ対応

創薬のデジタル化推進は、日本社会の高齢化に大きな影響を受けています。内閣府のデータによると、2035年には3人に1人、2060年には2.6人に1人が65歳以上の高齢者になる超高齢化社会の到来が予想されています。(参照:令和5年高齢社会白書

高齢化社会が進むと、①薬剤費を含む医療費の増加②パーソナライズされた治療の需要増加という二つの課題が浮き彫りになってきます。高齢者が多くなるということは、すなわち国が抱える医療費が増えるということ。そのため、国はなんとか医療費を減らそうと薬価改定を行ってきました。

しかし、製薬企業にとっては喜ばしくない改定が多く、治験は莫大な資金と時間と人手がかかる割に必ず結果が出るものではない高リスクなものになってきています。特に日本においてはその傾向が顕著であり、海外に拠点を置く外資系企業の中には高いコストを要する日本での治験を回避する企業もあり、海外とのドラッグ・ラグにつながっています。

そのため、バーチャルでの治験などデジタル技術を活用して治験の工数を少しでも削減し費用軽減につなげることが急務となっており、これからの治験、特に臨床試験サービスを提供するCRO(医薬品開発業務受託機関)にとっては大きな課題と言えるでしょう。

また、高齢化社会が進むことは工数削減だけではなく、治療そのものの考え方にも影響を及ぼしています。

今までであれば、医師が治療方針を決めそれに従って医療スタッフが治療を行っていくというスタイルが一般的でした。しかし、高齢者の異なる医療ニーズを捉えた治療法や、遺伝子解析を使って個々に合った薬剤を使用した治療の開発など、個別化治療が進んできています。従来の画一的な治療ではなく、患者さん一人ひとりに合わせた治療を行うことで、延命治療ではなく健康寿命を延ばすことが期待されており、ひいては国の医療費負担の軽減につながることが切望されています。

こうした時代に対応した治療法の開発が急務となっており、様々なデジタル技術の活用が開発の現場において推進されることで、新薬開発プロセスの効率化や成功確率の向上の実現が期待されています。

臨床開発におけるデジタル化の具体的な取り組み

製薬業界におけるデジタル化推進の重要性をお話したところで、ここでは臨床開発におけるデジタル化の具体的な取り組みについていくつか例を挙げたいと思います。
日本は欧米諸国に比べてこの分野では大きく遅れをとっていますが、このようなIT技術の活用は今後ますます需要が伸びるものと予想されており、臨床開発に携わるプロフェッショナルの方々にとっては必須となる知識となるでしょう。


1. アダプティブ・デザイン試験

アダプティブ・デザイン試験とは、得られた結果をもとに治験途中であってもプロトコル(治験実施計画書)を変更していくデザインの試験のことです。
通常、臨床試験は予め決められたルールを変更しませんが、アダプテイブ・デザインの場合敏速なデータ収集の実現により、中間解析等の結果を見ながら用量群の変更・症例数の見直しなど、試験デザインに変更を加えることが出来ます。
その結果、最適な検査や投与量などを試験に反映でき、治験患者の負担軽減はもちろん治験の工数削減などにつながり、臨床試験全体の生産性を向上させることが期待されます。


2. 分散型臨床試験(DCT:Decentralized Clinical Trials)

通常治験は、治験を受ける患者さんの来院に依存してきました。しかし、コロナ禍で患者さんの来院が難しくなったことでその必要性が高まったのが分散型臨床試験です。
これは、治験患者が通院せずとも治験が受けられる試験デザインのことで、患者さんが自宅で治験薬を受け取り、身に着けたウェアラブルデバイスやアプリなどでデータ観察を行い、診察もリモートで行われます。検査が必要になった場合は自宅近くの医療機関で行うというように、患者さんの利便性が著しく向上するうえ、製薬企業にとっても新規の被験者を集めやすくなるというメリットがあります。
ただし、導入にはITなどの環境やガイダンス面の整備が必要で、国内ではまだ治験の全工程をDCTにするのには時間を要しますが、今後の治験の新しい形となるでしょう。


3. プレシジョンメディシン

プレシジョンメディシンは、直訳すると「精密医療」と呼ばれ、患者さんそれぞれに合った治療を行う医療のことを指します。
色々な薬剤を患者さんに試していくのではなく、デジタル技術を活用して事前に患者さんの遺伝子解析を実施し、効果が最も期待出来るとされる薬剤や治験を判別する検査です。プレシジョンメディシンを行うことで、その薬剤の有用性が最も高いと予想される被験者に投与することが出来、患者さんの心理的・身体的負担を減らせるうえ治療満足度の向上にもつながります。
適切な治療が進み無駄な薬剤使用を抑えられれば、治療費の削減にもつながるというメリットもあります。特にがん治療領域において普及が想定されており、プレシジョンメディシンが進めばその治療に合った薬剤開発という新しい分野の開拓も期待出来ます。


デジタル化の波に乗るためにはアップデートが大切

このように新薬開発においてデジタル化が進んで行けば、より効率的に、よりパーソナライズされた薬剤を患者さんに提供できる確立が高くなります。それは患者さんにとっても治療満足度の向上という大きなメリットであり、製薬企業にとっても創薬の大幅な工数カット、新薬開発の新しい可能性の誕生など大きな魅力があります。これらを実現していくためには、治験のデジタル化は必要不可欠なステップと言えるでしょう。

臨床試験に携わる、もしくはこの分野での転職を希望されている方は、この点を踏まえてご自身の「治験の常識」を常にアップデートしておくことが必要です。採用面接でもこの点の見識を問われることもありますし、新しい方法をどんどん取り入れて実践してみるチャレンジ精神を忘れないようにしておくことが、今後の治験では大切なことです。

エイペックスでは、数多くの製薬業界専門のコンサルタントが在籍しており、臨床開発に携わるプロフェッショナルの方々のキャリアについて日々相談をお受けしています。業界動向や転職市場動向も踏まえ、キャリア相談は守秘義務遵守・完全無料となっておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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