経理業務に携わるのであれば必ず知っておきたい制度会計。制度会計は個別の会計基準や金商法の理解等専門性が求められ、基本的には公認会計士(CPA)に合格している方や有資格者に有利な分野ですが、ここでは改めてその概要や管理会計との違い、その経験を活かしたキャリアオプションなどを見ていきましょう。
制度会計とは
制度会計は財務会計と同義で使われることもありますが、基本的には会計基準や法令に基づいて行われるものです。会計基準は公認会計士試験で学習する通り、一般的な会計原則から減損会計、退職給付会計、リース会計、連結会計等の応用的かつ実務上重要な論点を多く扱います。
制度会計は、企業がIRにおいて記載する有価証券報告書や四半期報告書の基礎となる財務諸表を作成するために必須の業務であり、監査法人に勤務する会計士のみならず企業の財務・経理担当者も会計処理の仕方を理解する必要があります。したがって、場当たり的に勉強をするよりも資格試験等を通じて包括的に学習した方が良い分野になります。
制度会計と管理会計の違い
管理会計との最大の違いは、判断基準になる法令・基準の有無でしょう。管理会計は原価計算基準という昔の原価計算に関する大蔵省制定の基準がある以外は、各企業によって「一般に公正妥当と認められる会計基準の原則に反しない範囲」で柔軟に行われています。
一方で制度会計は、「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うべき」と定められており、それにあたるのが財務諸表を作成する際のルールである会計基準です。各企業で自由に財務諸表を作成してしまうと他社との業績の比較が難しくなるため、企業は必ずこの会計基準に従って財務諸表を作成しなければなりません。最終的には財務報告として企業のウェブサイトのIRページにおいて有価証券報告書、ないしはアニュアルレポートとして開示されるものになります。
会計基準は日本のJGAAP※、米国のUSGAAP※、IFRS(International Financial Reporting Standard:国際会計基準)とそれぞれ基準があり、アメリカで上場している企業であればUSGAAP、EU域内であればIFRSに従って財務諸表を作成することが多くなるでしょう。日本の場合は、上記3つとJ-IFRS(IFRSの日本版)の4つの会計基準から選択可能です。ただ、今後ますますグローバル化が促進され企業の海外進出などの可能性を考えた場合、IFRSを導入していく必要性が増していくでしょう。
※GAAP=Generally Accepted Accounting Principles
制度会計分野の転職で必要な知識と経験
制度会計を理解し業務を遂行するには、まずは正確かつ網羅的な会計基準の知識が必要です。これらは公認会計士試験で学習する内容ですが、それよりも実務において磨きをかけることが重要です。特に会計基準の中でも専門性や使用頻度が高い税効果会計、減損会計、連結会計、企業結合会計等は重要項目です。実務に加え、知識面での担保として税理士試験、公認会計士試験に合格していると非常に評価が高くなるでしょう。
経験として、監査法人における財務諸表監査の実務、特に上記に記載した専門性の高い会計基準に関する監査経験、もしくは事業会社の財務経理部において財務諸表の作成経験があると、今後の転職に際しても有利に働くでしょう。
監査法人で得られる貴重な経験
監査法人では、どのような業種の会計監査を行うにせよ上記に挙げた会計基準に基づいて行われます。監査クライアントにアサインされた後は、実査や棚卸などの基本的な監査手続きを経て、引当金や減損会計、企業結合会計、税効果等の応用的な論点の監査を行います。
これらの勘定科目の監査では、経理のみならずクライアントの経理部長などとディスカッションを行うことが多くなり、クライアントの会計処理の判断に重要な影響を与えるため、制度会計の中でも応用的かつ判断の領域が多い勘定科目の経験が活きてきます。
監査法人以外のキャリアオプションは?
では監査法人で得られた制度会計の正確な知識は、他にどんなキャリアで活かすことができるのでしょうか?
一つは、事業会社の財務経理部などにキャリアチェンジをして勘定科目を担当する、監査対応をするなどが考えられます。他にも、外資系企業の財務コントローラーも良い選択でしょう。この場合経理業務に専業するというキャリアプランになりますが、制度会計に習熟した人材であれば業界問わず財務経理部への転職の可能性はとても高いでしょう。
また、制度会計に加えて他の経験も積みたいということであれば、コンサルティングファームやFAS、投資銀行のM&Aチームなどのプロフェッショナルファームを視野に入れても良いでしょう。制度会計従事者が良いキャリアを歩むためには、若いうちにポテンシャル採用で証券会社の投資銀行部門やFASなどのM&Aアドバイザリー業務にチャレンジすると、単に制度会計に職人的な関わり方をするよりも実際のビジネスの場でその知識や経験を活かすことができ、将来的なキャリアオプションも広がります。
まとめ
このように制度会計に関する正確かつ網羅的な知識は、どのような業界においても重宝されます。会計の専門家を志す人は勿論ですが、ビジネスで投資やM&Aを扱う人にとっても正確な会計基準や制度会計の知識は非常に役立ちます。管理会計は各企業において属人的な要素があるのに対して、制度会計は法令や基準に従って処理を行うので業界横断的に活かせる知識・スキルになるのです。そのためには公認会計士、税理士資格ももちろん大切ですが、実務経験を積むことがとても大切です。