ますます需要が伸びるITエンジニア人材。年々多角化・拡大化する企業のIT部門を束ね、組織の可能性を最大化させる務めを担うのがエンジニアリングマネージャー(EM)です。
本記事では、エンジニアリングマネージャーとはどういった職責や仕事内容を担うのか、他のITエンジニア職との違い、求められるスキル、平均年収だけでなく、最近の転職事情や転職成功のコツについてもお話します。ぜひ最後まで読んで、今後のキャリア形成に役立ててください。
目次
エンジニアリングマネージャー(EM)とは?
テックリードとの違い
プロジェクトマネージャー(PM)との違い
エンジニアリングマネージャーの3つの役割
エンジニアリングマネージャーの仕事内容6選
エンジニアリングマネージャーに必要な3つのスキル
エンジニアリングマネージャーの平均年収
エンジニアリングマネージャーのキャリアパス
エンジニアリングマネージャーの転職事情
エンジニアリングマネージャーの転職のコツ
エンジニアリングマネージャー(EM)とは
エンジニアリングマネージャー(EM)とは、ひと言でいうとITエンジニアを管理する管理職をいいます。
ITエンジニアの採用や育成・目標設定・評価・人員配置といった人材管理者としての役割と、ITの専門家として開発メンバーに対し技術的なリソースを提供しながら、開発プロジェクトを成功に導くためのマネジメントの役割を担います。
昨今は事業会社のIT化・DX化に伴い多くのITプロジェクトが立ち上がりエンジニアチームが拡大傾向にあること、SaaSをはじめ日本でも多くのITスタートアップが登場しているなどの要因から、エンジニアチームを管理するEMの採用が増加傾向にあります。ただ、企業規模や成長段階によって業務範囲はかなり異なってくるため、転職の際にはエンジニアチームの構成や職責についてきちんと確認することが必要です。
テックリードとの違い
テックリードとEMの大きな違いは、その役割にあります。
EMがエンジニアチームのパフォーマンスに責任を持つピープルマネジメントに比重を置く職種に対し、テックリードはエンジニアチームの技術リーダーであり、企業の開発技術におけるフロントラインとしての役割を担っています。
例えば、開発のための技術選定や設計手法の決定、付随するアーキテクチャやデータベース等の評価検討、コードの品質の担保など、テックリードはサービスのあるべき姿を考えながら開発全体の技術要素に関わります。
EMもプロジェクトの技術面の支援に関わりますが、どちらかというと生産性の管理やメンバーの能力開発、業務改善のためのサポートといった側面からの役割が多いのが特徴です。
プロジェクトマネージャー(PM)との違い
システムやサービスを開発する際には、プロジェクトが立ち上がります。その際にプロジェクトを指揮して円滑に進行していく役割を担うのがプロジェクトマネージャー(PM)です。プロジェクトの進行管理や予算管理、ベンダー管理などを行いながら、顧客が望む要件を満たすシステム等を作り上げ顧客に納品する責務を負います。
PMが担当プロジェクトのデリバリーに責任を持つのに対し、EMの立ち位置は各プロジェクトを管理しつつもエンジニアチーム全体を管理する役割のため、PMよりもEMのほうが組織において上の位に位置します。
なお、PMによく似た言葉の職種でプロダクトマネージャー(PdM)がありますが、こちらは各プロジェクトではなく、開発するプロダクトそのものの責任者という立ち位置になります。
エンジニアリングマネージャーの3つの役割
EMには、主に
組織のパフォーマンスの最大化
技術的負債の解消
経営層や営業など他部門との橋渡し役
という3つの役割があります。では、それぞれ詳しく見てみましょう。
1. 組織のパフォーマンスの最大化
EMの大きな役割の一つは、エンジニア組織を適切に管理してチームのパフォーマンスを最大化することにあります。
例えば、ハイスペックなパソコンを用意して動作の遅延を気にせずに作業に打ち込める環境を整えるなど、技術的な問題点があれば解決に導き、各エンジニアが作業に集中できる環境を整えます。また、定期的なフィードバックを各エンジニアやプロジェクトチームに与えることで、課題が発生した際の判断能力を引き上げ敏速な対応を促します。
このように技術面からも経営面からもエンジニアチームをサポートし生産性を高め、会社の利益につなげることがEMの評価指標となります。
2. 技術的負債の解消
技術的負債を抽出・解消をするのも、EMの職責の一つです。
技術的負債とは、システム等を開発する際に不注意や早期納品を優先したことで将来的な修正にかかるコストのことを指します。
システム開発の歴史が長い組織はノウハウが蓄積されているため、大きな問題に直面した場合でもスムーズな対処が可能ですが、一方で改善の余地が大きい“置き去り”のプログラム・機能が生まれる要因となっているため、技術的負債が溜まりやすくなります。また歴史の浅い組織であっても、リリースを優先した開発スタイルの企業には技術的負債が溜まりやすく、解消が必要です。
EMは以下の要素を考慮しながら、優先順位を決めて技術的負債の解消に臨みます。
技術的負債の解消に必要な技術レベル
技術的負債の解消にかかる工数
技術的負債を残すリスク
最終的にすべての技術的負債を解消することが理想ですが、受け入れられる範囲を判断するのもEMの仕事です。
3. 経営層や営業など他部門との橋渡し役
EMは、エンジニアチームと経営層・営業部隊などとの橋渡し役となり、適切に業務をコントロールする役割も担います。
営業は、顧客からの仕様変更や納期についての要望などをエンジニアにあげてきますが、開発中のエンジニアは自身の業務と並行しながらスケジュールや品質はもちろん、現場で発生している新たなバグやテストチームから上がる改善要望など、頭に入れるべき情報が数多くあり適切な判断ができません。
そこで、一歩引いた立場にあるEMが両者の間に仲立ちし、受け入れるべき要望をエンジニアと調整して取捨選択し、プロジェクトの進行をサポートします。経営層と開発現場との橋渡し役となり、会社のビジョンの共有や企業文化の醸成、より良い職場環境の形成を促進するのもEMの仕事です。
エンジニアリングマネージャーの仕事内容6選
それでは、EMの具体的な6つの仕事内容を見ていきましょう。
1. メンタリングとコーチングを通したメンバーの成長支援
エンジニアが適切なメンタリティーで業務に臨めるように、定期的な“声かけ”や1on1ミーティングを行うのがEMの一つ目の仕事です。メンタリングのタイミングは各エンジニアの性格や価値観により千差万別となるため、EMの腕の見せ所となります。
コーディング支援ツールなどより簡単に業務ができるよう進化を続けるIT業界ですが、システム開発をするのはあくまで人間です。より質が高く、より生産的に組織が動くようにするためには、現場で働くエンジニアへのパフォーマンスを維持・推進することが重要になります。
2. エンジニアの目標設定と管理・評価
エンジニア業務はある程度のレベルまでいくと、開発するシステムの中身は異なっても基本的な流れは同じになります。EMの大切な仕事として、業務がマンネリ化しないよう部下の目標設定・管理と定期的な評価があります。
短期・長期で新たな目標を設定し、適宜フォローアップしながら成果をフィードバックすることで、各エンジニアのモチベーションを保ち、成長を促します。なかには目標を立てられないエンジニアもいるため、一緒になって目標を立てるなど寄り添う姿勢も必要です。自身の経験からキャリアのヒントになるような目標を提示できると、エンジニアからの信頼を集められるようになります。
3. エンジニアの採用・開発組織体制の確立
EMは開発組織全体の運営を任させる立場のため、組織体制の確立のための人員計画と推進、予算管理なども行います。
現場に必要なエンジニアを見極め、定期的にエンジニアを採用するのもEMの仕事です。どのチームにどんなエンジニアが必要なのか、テクニカルスキルだけでなく社風・現メンバーとのマッチング、管理者は誰が適しているかなども含めて、開発組織の体制づくりを行います。
そのため、実際にカジュアル面談や採用面接の面接官として採用業務を行ったり、採用のための広報活動を考えたり、新規メンバーのオンボーディングのための施策を立案したりします。
4. システム開発環境への提案・導入
システム開発の現場は日進月歩のため、より生産的に開発ができるツール・開発環境が生まれる業界です。
現在の開発環境を改善するツール・開発環境を提案し、現場に導入することもEMの業務の一つとなります。例えば、バグ管理を表計算ソフトで行っているのであれば、専用アプリを導入した方がはるかに効率的でトレーサビリティ性が上がるなど、技術的な課題の洗い出しや提案、導入支援を行います。
各エンジニアは日々の業務に追われ、新しい情報を収集するのは簡単ではありません。全体を見渡せるEMが最新トレンドにアンテナを張り、自社の環境にマッチするのかの判断を下し、開発チームに提案します。
新しいツールの導入には金銭的コストが伴うため、導入にはいくつかのハードルを越えなければなりません。投資計画や稟議書の作成、経理部・経営陣との交渉、レポーティングなど、導入に必要なアクションもEMの仕事です。
5. プロジェクトマネジメント
エンジニアチームを俯瞰する立場にあるEMは、プロジェクトマネジメントも業務の一つとして行います。会社によりますが、EM兼PMのような立ち位置のエンジニアも存在します。
具体的には以下の施策を通じて、プロジェクトをあるべき姿にリードします。
ドキュメントレビュー
エンジニアのリソース管理
プロジェクトの課題管理
タスクの優先度管理
技術的判断
PMがいる場合でもEMがプロジェクトマネジメントに携わっても問題はありませんが、指揮命令系統が混乱するため、それぞれの責任の所在を明確にして協調していくことが必要です。
6. システムのビジョンマネジメント
EMは、自社の開発するシステムがどうあるべきかのビジョンの管理も業務の一つとして行います。
クライアントのニーズや社会のトレンドを把握し、システムのビジョンを作り上げるのが仕事です。クライアントからの要望に応えるシステム開発を目指しつつも、短期的な売上アップだけでなく長期的な視点で市場ニーズに応える製品を開発することが求められます。もちろんクライアントに“刺さらない”システムを作り上げても意味がないため、バランスが重要です。
EMは、短期・長期の両方の視点から自社システムのあるべき姿を描き、社内で共有する必要があります。
エンジニアリングマネージャーに必要な3つのスキル
ここでは、EMに特に必要とされる3つのスキルをご紹介します。
1. マネジメント力
エンジニアチームはもちろん、各エンジニアそれぞれを管理・指南するのがEMの主な務めであるため、マネジメント力のなかでもピープルマネジメントの能力は非常に重要となります。より良いチームづくりに日々模索しながらも、各エンジニアにフォーカスして共に目標設定をしたり、キャリアの希望を引き出して能力を最大限に発揮させるファシリテーションやメンタリングのスキルも必要です。
また、プロジェクト管理、プロダクト管理の能力も求められます。各プロジェクトのスケジュール面や予算面、技術的な課題解決をサポートしながら、プロダクトのビジョンマネジメントやマーケティング面、セールス面にも適切に知見やリソースを提供するため、そのための方法・理論は数多く知っておく必要があります。
他にも他部門からの要望を受け止める立場にあるため、部門間の最終的な落としどころを決定できる能力も必要になります。
2. 経営的視点
プロジェクト管理やプロダクト管理など俯瞰して業務をする立場上、自社の戦略やサービスがどうあるべきかを考える経営的な視点も持っておく必要があります。
各プロジェクトには損益の分岐点があり、リソース・コストをどこまで使えるのかは経営的な判断が問われます。また新規採用やメンバー教育のための施策を打つなど、経営的な観点から組織力の強化を図る力が求められます。
EMは経営陣と現場をつなぐポジションであり、将来的にさらにキャリアアップを目指す場合を考えても、経営的な視点からの判断ができる力が必要とされます。
3. エンジニア経験と深いIT知見
エンジニアチーム・各エンジニアをリードする立場にあるため、エンジニア経験とITへの深い知見は必須です。
エンジニアが抱える課題を解決するための“アタリ”をつけるには、何よりも経験が役に立ちます。また、より発展した開発環境をエンジニアチームに提案するためには、現在の環境の弱点を理解できていなければなりません。
他にもトラブル対応などの厳しい場面では、EMの判断力が求められるため相応の経験値と知識が必要です。
エンジニアリングマネージャーの平均年収
昨今のITエンジニア不足で高年収が狙えるIT業界ですが、そのなかでも経験値の高さが求められるEMは高い年収での募集が数多くあります。こちらは一例ですが、平均して1,000万円~2,000万円の年収を目指せる職種といえるでしょう。
日系SaaS企業:~1,500万円
日系SaaS企業:~2,000万円
日系SaaS企業(IPO予定):1,000万円~1,300万円
外資系AIスタートアップ企業:1,400万円~2,000万円
外資系ヘルステック企業:~1,700万円
日系SaaSスタートアップ:1,000万円~2,000万円
日系グローバルヘルステック企業:~1,100万円
こちらは公開されている求人ですが、そのほかにも求人サイトに掲載されていない非公開求人もありますので、詳細はぜひIT専門コンサルタントまでお問い合わせください。
エンジニアリングマネージャーのキャリアパス
では、EMとして実績を積んだあとはどのようなキャリアパスが考えられるのでしょうか?現職に留まる場合でも転職の場合でも、キャリアアップを目指すのであれば以下の2つの道が最も理想的といえます。
1. VPoE
VPoEとは「Vice President of Engineer」の略であり、職務上の役割はEMに非常に近いポジションでエンジニアチームの責任者となります。
組織により役割分担に違いがあり一概にいえませんが、EMはどちらかというと各エンジニアをマネジメントするポジションであり、VPoEは部門全体を統括する役職のためより組織向きのポジションといえます。VPoEのほうが他部門との関わりが多く、組織の方向性を決めたり戦略的な意思決定を行ったりする役割があるため、より経営に近いポジションです。年収相場も~2,500万円ほどであるため、経営に興味があればEMが目指すキャリアとして非常に理想的です。
また、VPoEとよく似た言葉でVPoP(Vice President of Product)というポジションがあり、こちらは製品の責任者として製品戦略の立案や遂行、製品ロードマップや長期ビジョンの構築を担当したりします。
2. CTO
CTOは「Chief Technology Offier」の略で、企業のIT技術戦略を決定する最高技術責任者です。
CTOは、会社の事業戦略に沿って自社の技術開発や開発組織の方向性を決定する役割を担うため、技術部門をリードしつつ経営に貢献するため、新技術の導入など技術的な視点からあらゆる施策を打つことが求められます。自社の技術力だけでは難しい要求に対して他社との協業を目指すなど、対外的な折衝の場にも立ち会う機会も増えます。
EMよりも経営的な視点から技術部門をリードすることが求められますが、経営にからめた技術戦略に携わりたい場合には、EMが目指すべきキャリアとしてCTOは最適です。年収相場も~2,500万円ほどであり、最高技術責任者として大きなやりがいを持って取り組める職種です。
エンジニアリングマネージャーの転職事情
ここでは、エイペックスのITチームのプリンシパルコンサルタントである幾島俊に、昨今のEMの転職事情について話を聞きましたのでご覧ください。
「デジタル化やDX推進が進む中で、エンジニアリングマネージャーの需要が急増しています。これは大手IT企業だけでなく、特に顕著なのがスタートアップを含めた日系企業です。これまでは技術リーダーが兼任していたEMの役割を専門的に分担する動きが出てきており、EMのポジションを新設する企業が増えています。
留意すべき点としては、EMと一口に言っても企業ごとに定義や役割が異なり、特に企業のフェーズによって役割が大きく変動する点です。EMは技術面とピープルマネジメントの両方のスキルが必要な職種ですが、企業によって求める比重が異なりポジションのタイトルだけでは見分けがつきにくく、他社とどう違うのか求人票から読み取るのは困難です。
こうした一見わかりづらい部分を明確にするためには、転職エージェントの力が欠かせません。エイペックスの場合、人事部門だけでなく現場の社員とも密接にコミュニケーションを取っているため、募集の背景やチームが抱える人材面の課題についても理解しています。あなたの志向やスキルがその求人の募集要件とマッチしているのか的確にアドバイスすることが可能であり、もちろんその他付随する業務内容や企業カルチャーについても情報共有ができますので、情報収集の手間が省けたり効率的な応募ができるという大きなメリットがあります。EMについての詳しい転職事情や面接対策について、ぜひ一度問合せてみるとと良いでしょう。」
エンジニアリングマネージャーの転職のコツ
EMは、多くの企業で求められるITエンジニア組織のリーダーであり、高いマネジメント能力とITへの知見両方を活かせるハイクラスな職種です。現在市場で需要が高まっているため良い条件での転職が期待できますが、一方で転職には戦略的なアプローチが欠かせません。
EMをはじめIT職は業務内容が企業によってかなり異なり、その企業が求めるエンジニア像を把握するIT専門の人材コンサルタントの力を借りることが不可欠です。エイペックスのIT専門コンサルタントは、各IT企業もしくは事業会社のIT部門の採用担当者と密接に連携を取っており、あなたの能力や希望に合ったポジションを紹介することで高い書類選考通過率を維持しています。
今すぐの転職でなくとも、市場情報の共有だけでも大歓迎です。ご興味がある方は、ぜひエイペックスのキャリア相談会にお越しください!